大切にしていた家具に傷をつけられた。業者に連絡したら「うちでは補償できません」と言われた――そんな理不尽さと焦りを感じている方もいるかもしれません。そんなときは、まず落ち着いて対応手順を確認していきましょう。
引越しでついた傷は補償される?まず知っておきたい基本ルール
「そもそも、業者に傷をつけられたら弁償してもらえるの?」――まず気になるのは、そこですよね。
結論から言うと、補償の対象になるかどうかは標準引越運送約款(第22条)が基準になります。
ポイントは、「傷をつけていない」と証明する責任は業者側にあるということ。業者が「注意を怠らなかった」と証明できない限り、損害賠償の責任は業者が負います。国民生活センターも同じ考え方を示しています(詳細は記事末尾の出典欄)。
つまり、泣き寝入りする必要はありません。
ただし、すべての傷が補償されるわけではない点には注意が必要です。
荷物そのものの欠陥・自然消耗・天災、そして自分の不注意が原因の場合は、業者の責任が免除されます(第23条)。自分で梱包した荷物や、申告した価額を超える損害も、全額は認められないことがあります。
そして、一番見落としがちなのが「期限」です。
荷物を受け取った日から3ヶ月以内に業者へ伝えないと、補償を受ける権利そのものが消えてしまいます(第25条)。「後で言おう」と思っているうちに期限切れ――これが一番もったいないパターンです。
このページでは、実際のトラブル事例や対処法、業者が動いてくれないときの相談先まで、順番にまとめていきます。
まずは、今の状態で引っ越し代がいくらかかるのか知りたい場合はこちら
傷トラブルは、業者選びでかなり差が出ます。一括見積もりで先に比較しておくと、対応の良し悪しも見えてきます。
実際にあった引越しトラブル
実際にあった傷トラブルの事例をご紹介します。
どんなトラブルが起こるのか見てみましょう。

「引越し作業中」に思い出のタンスに傷がついてしまった例
引越しにかかる費用を少しでも節約するため、トラックへの家具や家電の搬入は、ほとんど自分たちで行いました。
しかし、嫁入り時に両親から買ってもらった洋服ダンスだけは傷をつけたくなかったので、業者に搬入をお願いすることに。
それなのに、タンスを運び出してトラックに積み込んだ際に傷をつけられてしまいました。
ガツッという音がしたので慌てて見に行ったところ、前面の引き出し部分がトラックの突起に引っかかり、えぐれているような状態に。
今まで大切に使っていたのにと思うと、悲しくて・・・。
しかし、「自分たちでは判断できない」の一点張りでした。
作業スタッフは、平謝りするばかりです。
とはいえ、引越し作業を中断するわけにはいかないので、そのまま新居に向かい、荷物の搬入を終えました。
新居についてから、傷をつけたスタッフに引越し業者の担当部門に電話をかけてもらい、翌日状況を確認してもらうことに。
翌日到着した修理部門のスタッフが、いったん持ち帰り、無料で修理してくれることになりました。
手元に戻ってくるまでに約10日ほど。
戻ってきた洋服ダンスは、お世辞にも綺麗な仕上がりとは言えませんでした。
修理部分の色は周囲と明らかに違っています。
こんな仕上がりじゃ納得がいかないから、自分で修理してくれる業者を探す
と申し出ました。
我が社の修理センターで修理させてください
このように、なかなか応じてもらえませんでした。
でも、また修理に出しても、同じような仕上がりになって帰ってくるのが目に見えています。
これ以上、大切なタンスを傷つけてほしくありません。
元の状態に戻してほしい、ただそれだけなのに、何の進展もないまま1か月がたとうとしています。
「引越し後」に買ったばかりのテーブルの傷に気が付いた例
引越しから2日たった頃、子供用に買った新品のテーブルの天板に、20pほどの深いすり傷がついていることに気が付きました。
子供用の荷物は片付けが後回しになっていたので、引越し直後には気が付かなかったのです。
慌てて引越し業者に電話をして、その日のうちに状況を見に来てもらうことに。
当日は、引越し作業を担当したスタッフが来られないということで、エリア担当の方が代わりに来ました。
無料で修理させてもらいます
とのことでしたが、3月で引越し繁忙期のこともあり、修理には2〜3週間かかるとのことでした。
子供の学校は4月から新学期ですし、それまでに何とか修理してほしいと頼みましたが、約束は出来ないと言われてしまいました。
傷をつけられたのは、子供の進級祝い用に購入したばかりで、まだ使ったこともないテーブル。
新学期に間に合わないのなら、新品に交換してほしいと伝えました。
しかし、
こんな傷程度では交換できない。
使用には問題がない。
それに、引越しから2日たっている。お客さんや子供が傷をつけたという可能性もある。
と言われ・・・。
子供に確認したら、「傷がついていてもいい。4月から新しい机を使いたい!」というので、今回は修理を断りました。
その後、お詫びの連絡も一切ありません。
引越し中に気が付いていれば、もしかしたら新品に交換してもらえたのだろうかと後悔しています。
家や家具に傷がついてしまった時の対処法
引越し中に気が付いたのか、引越し後数日たってから気が付いたのかによって、取るべき対処方法が変わります。
パターン別の対処方法を知っておきましょう。
引越し中に傷に気づけた場合は、状況を確認しやすいというメリットがあります。
スタッフの過失であることを証明しやすいので、自分たちの過失で傷がついたと言われる可能性はかなり低くなります。
傷を見つけたら、作業スタッフの責任者に伝えましょう。
必要であれば、スタッフにも当時の状況を確認してもらいましょう。
ただし、現場のスタッフだけでは傷の補償については判断できません。
作業スタッフの責任者に傷を確認してもらったら、その場で営業所の担当者に連絡をしてもらいましょう。
修理になるのか、代替品になるのか、補償金額はどうなるのかを確認します。
作業スタッフが帰ってしまってから傷に気が付いた場合は、傷がついた部分の写真を撮影しておきます。
その後、すぐに引越し業者に電話をして状況を伝えましょう。
【重要】申し出は3ヶ月以内・口頭ではなく書面で
標準引越運送約款(令和7年3月19日国土交通省告示第193号・令和7年4月1日施行)第25条では、引渡し日から3ヶ月以内に通知を出さないと業者の責任が消滅すると定められています。
ここで3点、注意しておきたいことがあります。
まず、起算日は「引渡し日」です。傷に気づいた日ではなく、引越し業者が荷物を引き渡した日から3ヶ月が期限になります。
次に、口頭での申し出は証拠として弱いという点です。電話で伝えるだけでなく、メールや書面でも通知しておきましょう。
そして、1年を過ぎると裁判での請求も難しくなります(第27条)。
なお、業者が最初から損傷の事実を知っていたと立証できる場合は、3ヶ月を過ぎても請求できる可能性があります(第25条第2項)。ただし立証は難しいため、専門家への相談もご検討ください。
業者への伝え方(電話・メール例)
「どう伝えればいいか分からない」という声が多いので、伝え方の例を載せておきます。
なお、傷が引越し中に生じたものであることは、傷の写真と申告時期が証拠になります。最初から証拠がすべて揃っていなくても、まずは連絡して記録を残しましょう。
電話でのポイント
「◯月◯日にお願いした引越しについてご連絡しています。荷物を確認したところ、◯◯(品名・場所)に傷があることに気づきました。補償の手続きについて確認させていただきたいのですが、ご担当部署をご案内いただけますか」
電話では「傷があったこと」と「補償について確認したいこと」を伝えれば十分です。最初から強い言い方をしなくても、あとからメールなどでも連絡しておくと、記録として残せます。
メール・書面の例
◯月◯日に引越し作業をお願いいたしました[氏名]と申します。
引越し後、[品名]の[場所]に約◯cmの傷があることを確認しました。
写真を添付いたします。
補償の手続きについてご連絡いただけますでしょうか。
氏名:
連絡先電話番号:
引越し日:
担当作業員名(分かれば):
件名に引越し日と氏名を入れると、業者側が案件を特定しやすくなります。
引越し業者に原因があった場合でも、3か月を過ぎてしまうと補償されないということ。
とはいえ実際は、引越しから1か月も経過していると、「引越し時の過失だと認められない」ケースがほとんど。
引越しから数日以内には確認し、傷を見つけたら早めに連絡しておきましょう。
傷を見つけた時点の状況によって、対応が少し変わります。下の表で自分の状況を確認してみてください。
| 状況 | 次の行動 |
|---|---|
| 引越し中に傷に気づいた | 作業責任者に即確認・その場で営業所に連絡してもらう |
| 引越し後に気づいた(3ヶ月以内) | 写真を撮影 → 電話で連絡 → 書面(メールでも可)でも通知 |
| 「補償できません」と言われた | 「証明責任は業者側にある」(第22条)と伝え、再検討を求める |
| 交渉が行き詰まった | 消費者ホットライン「188(いやや!)」に相談。法的判断が必要なら法テラスへ |
| 3ヶ月を過ぎてしまった | 業者が損傷を知っていたと立証できる場合は例外(第25条第2項)。ただし難しいため専門家へ相談を |
申告は電話だけでなく、メールや書面でもしておきましょう。口頭だけだと証拠として残りにくくなります。3ヶ月の起算日は傷に気づいた日ではなく、業者が荷物を引き渡した日です。
傷がついた時はどんなふうに補償を受けるのか
引越し業者側に問題があって家や家具が傷ついた場合には、保険によって弁償されます。
簡単に修理できそうなものであれば、引越し業者の修理担当スタッフが後日家にやってきて、その場で修理を行います。
その場で修理できない物に関しては、引越し業者が持ち帰って修理する、もしくは修理費用に掛かったお金を後日請求することになります。
使用不可能な場合は、代替え品を購入します。
代替え品を購入した費用を支払ってもらえるケースと、物の価値を引越し業者が独自に判断して賠償金が支払われるケースの2パターンがあります。
賠償金が支払われるケースの場合、購入時の代金が分かるレシートや、価格.comなどの最低販売価格が参考にされる事もあります。
傷つきやすい家具・家電
搬入の際に傷つきやすい家具・家電、見逃しがちなチェックポイントを5つご紹介します。
1.大型家具の天板・底板
タンスなどの大型家具は、全面を梱包しきれないことも。
また、寝かせて運ぶため、天板や底板、化粧面や背面の割れに注意が必要です。
2.取っ手・ノブ
家具やドアの取っ手・ノブはでっぱっているので、引っかかりやすい部分です。
搬入後に傷がついていないか、折れていないか、実際に手に取ってチェックしましょう。
3.家電のスイッチボタン・開閉部分
家電のスイッチボタンなど、飛び出ている部分は破損しやすい部分です。
また、デッキなどの開閉部分が輸送時の衝撃で開かなくなってしまうこともあります。
搬入後は、家電類のボタンと、開閉部分に異常がないかの動作チェックを忘れずに。
4.座卓
大きな座卓は立てた状態でトラックに詰め込むので、梱包状態が甘いと天板や脚に傷がつく可能性が高いです。
天板だけでなく、脚の部分もしっかり梱包してもらいましょう。
5.電化製品の蓋
炊飯器やオーブンの扉などが問題なく開くかどうかチェックしてください。
輸送時の衝撃で歪んでしまったり、割れてしまうこともあります。
他トラブルについては下記のページをを参考にしてください。
引越しする時に高級品を運ぶ正しい方法や保険についてはこちら
※本記事で紹介する対処法・補償の内容は一般的な例です。実際の対応は各引越し業者の約款や契約内容によって異なります。詳しくは利用する業者にご確認ください。
【出典】
・国土交通省「標準引越運送約款」

